環境再生型建築の設計|土・水・生態系から考える7つの設計視点

「建てるほどに、土地が豊かになる建築」。この言葉に共感する建築家の方が、ここ数年で急速に増えています。世界の建築界では「サステナブル(持続可能)」から「リジェネラティブ(環境再生型)」へと価値観が大きく動き、IADA・IDA・Asia Design Prize といった国際賞でも、地球と生態系を回復させる建築が最高位を取りはじめました。

一方で、いざ自分の事務所で環境再生型建築を設計しようとすると、「何から考えればよいのか」「現代の標準的な設計フローのどこを書き換えればよいのか」が見えにくい——という声を多くいただきます。

この記事では、屋久島・バリ島・国内の寺社の杜などで環境再生土木・造園Ishiba-date (Traditional Stone Foundation)の施工に携わってきた立場から、環境再生型建築を設計する際に押さえてほしい7つの設計視点を、現場で実際に起きていることに即してお伝えします。

環境再生型建築とは——「持続可能」から「再生型」へ

サステナブルとリジェネラティブの違い

「サステナブル建築」は、これ以上環境を悪化させないという現状維持の発想です。省エネ性能を高め、CO₂排出を減らし、材料の負荷を抑える——どれも重要ですが、ベクトルは「マイナスをゼロに近づける」方向です。

これに対して「リジェネラティブ(環境再生型)建築」は、建てて住むこと自体が、土地・水・空気・生態系を回復させる方向に働くという発想です。プラスを生み出す建築、と言い換えてもいいでしょう。世界の建築賞の審査員たちが近年もっとも注目している価値軸のひとつです。

建物単体ではなく「土地ごと」設計する発想

このベクトル転換の出発点は、「建築物」だけを設計対象としないことです。建築単体の性能ではなく、敷地全体——地形、水脈、土壌、植生、微生物、隣地との関係まで含めた一つの生態系として設計するという視点が前提になります。

私たちが現場で関わる環境再生型住宅では、建物の図面と外構の図面が別人格として存在しません。地形と水の流れの図面のうえに、建物の輪郭がそっと置かれる——そんなイメージが近いです。

設計の出発点を変える——敷地の地盤・水脈・生態系を読む

環境再生型建築の設計で最初に書き換える工程は、意外にも図面ではなく「敷地調査」です。ここの解像度を上げないと、その後どれだけ良い意匠を載せても、土地は応えてくれません。

地形と地下水脈を実測する

一般的な敷地調査では、地盤の支持力やボーリングデータが中心で、水脈や気脈の流れは記述されません。しかし環境再生型建築では、土の中の空気と水の流れこそが、建物寿命と土地の健全性を左右する最大の変数になります。

等高線・既存樹木・湧水・湿地・既存の沢の痕跡・周囲の谷筋を実測し、敷地全体を「水と空気がどう流れているか」という視点で再描画する——この工程に丸一日でも費やすかどうかで、設計のその後がまるで変わってきます。

土壌物理性(排水・通気・保水)を把握する

地耐力だけでなく、土壌の排水性・通気性・保水性——いわゆる土壌物理性を必ず把握してください。粘土質で水が抜けない敷地に、コンクリート基礎で蓋をしてしまえば、家の周辺の土壌は数年で機能不全に陥り、根まわりの樹木から弱っていきます。

土を生かしながら建てるためには、現況の土が「呼吸できているか」を最初に診断する必要があります。試掘や浸透試験は造園や土木の業者と組めば数時間で済む工程で、設計初期の判断材料として極めて費用対効果が高いです。

既存植生・微生物環境を残す前提で配置を決める

既存樹木は「景観要素」ではなく「土壌微生物のホスト」です。高木1本の根圏には、数百種の微生物・菌類・小動物が生息しています。これらを伐採するか残すかは、敷地の生態系の連続性に直結します。

建物の配置は、既存樹木と土壌生態系を最大限残せる線を最初に引く——これが環境再生型の鉄則です。「建物を置いてから外構で何とかする」順番では、土地の最大のポテンシャルは引き出せません。

基礎の発想を変える——石場建という千年級の選択肢

環境再生型建築の設計で建築家の方がもっとも悩むのが「基礎」です。コンクリート基礎は安心感がありますが、地面を完全に塞ぐという意味で、リジェネラティブの思想とは正反対の構造です。

礎石の上に柱を載せるだけの構造

コンクリート基礎で地面を塞がない選択肢として、日本には「石場建(いしばだて)」という千年以上の実証を持つ伝統構法があります。礎石の上に柱を直接立て、緊結せず「載っているだけ」の関係をつくる工法です。法隆寺をはじめ、現存する千年級の木造建築の多くがこの工法で建てられています。

「コンクリートで固めない家は不安」と感じる方が多いですが、実際は逆で、石の上で柱がわずかに動けることが地震エネルギーを逃がす免震的な働きを生みます。固く受け止めるのではなく、しなやかに受け流す——日本の伝統工法に共通する発想です。

床下を解放することで生態系を残す

石場建の最大の特徴は、点状の礎石配置と高床により、建物の下を土・水・空気・小動物が自由に通り抜けられることです。建物が立っているにもかかわらず、雨水が地下に浸透し、土壌微生物が連続し、植物が生育できる——敷地の生態系を断ち切らずに建築物を載せられる、世界でも稀な構法です。

礎石の下は栗石や砂利を突き固めて排水と通気を確保した地盤をつくります。床下を解放することで木材も自然乾燥し、調湿・調温機能が働くため、住み手の体感としても夏は涼しく冬は穏やかな環境が得られます。

廃棄時に自然還元できる素材構成

石・木・土・草・竹・炭——石場建で使われる素材は、解体時にそのまま土に還ります。コンクリートと鉄筋の建物が解体時に発生させる産業廃棄物量と、根本的に異なる出口設計immediately applicable skills

ライフサイクル全体での環境負荷で評価される時代において、解体可能性は設計初期に組み込むべき要件です。EKAMが施工を担当した屋久島の石場建住宅『Regenerative Vegan House』は、この出口設計まで含めた建築哲学が評価され、Asia Design Prize 2026 Gold Winner、IADA 2026 Platinum Winner、Global Architecture Awards 2025 金賞など複数の国際賞を獲得しています。

ライフサイクル全体で設計する

リジェネラティブ建築では、設計の評価軸が「使用時の省エネ性能」だけではなくなります。建てる前から壊した後までを一つの設計対象として見渡す視点が必要です。

建設時から解体時までの環境負荷

環境再生型建築の総合評価では、①素材の生産時に出るCO₂(embodied carbon)、②建設時のエネルギー、③使用時の運用エネルギー、④維持管理時の負荷、⑤解体時の廃棄物——この5段階の総和で考えます。設計初期にこれを意識しておくと、選定する基礎・構造・断熱・仕上げ材の優先順位が大きく変わります。

部分修繕・部分交換が可能な構造

コンクリート躯体は一度建てると、傷んでも交換できません。一方、伝統構法は柱・梁・床・土壁を一本ずつ・一面ずつ交換できる「部分修繕」が前提です。100年使うことを前提に、どこが先に傷み、どう取り替えられるかを設計に組み込む——これは建築家がもっとも貢献できる領域のひとつです。寺社建築が千年単位で残ってきたのは、まさにこの設計思想によります。

地域素材と職人技の継承

建材の長距離輸送はCO₂と引き換えに地域経済を弱めます。敷地から半径数十km以内の石・木・土・職人技を活用する設計は、建築の環境負荷を下げると同時に、地域に技術を残します。リジェネラティブ建築の評価軸には「地域の技術と経済を再生したか」という視点も含まれます。

建物と外構(ランドスケープ)を分けない

環境再生型建築では、建物の図面と外構の図面が同時並行で動きます。むしろ「外構が先、建物が後」と言ってもいいくらいです。

雨水を敷地内で循環させる

屋根・庇から落ちる雨水を、敷地外に流す排水計画ではなく、敷地内の地下に浸透させる計画を最初に立ててください。雨水を地下水脈に戻すことで、土壌の通気と浸透が保たれます。表層暗渠で一気に流すのではなく、点穴(地中に縦穴を開けて炭や竹で満たす)や水脈溝といった、土が呼吸し続ける排水設計が選択肢になります。

古来工法の現場では、不織布フィルターを使いません。理由は、不織布が数年で泥詰まりを起こし、根や菌糸の侵入を遮断してしまうからです。栗石・炭・竹といった素材を組み合わせた排水構造は、時間とともに機能が育っていきます。

植栽計画を建物設計と同じ初期段階で

植栽は「最後にあしらう要素」ではありません。植栽は敷地の水と空気の流れを物理的に整えるインフラです。建物の配置・開口部・屋根勾配と同じタイミングで、どの位置にどの樹種を植えるかを構想してください。

在来種を中心に、上木・中木・下木・地被の多層構造で組むことで、建物まわりの微気候そのものが穏やかになります。単一樹種・同年代の植林は、樹木同士を競合させストレス状態に置くため、健全な森になりません。これは100年前のヨーロッパの森林技師たちが観察記録に残してきた知見でもあります。

施工パートナーと設計段階から協働する

最後に、おそらく最も大切な視点です。リジェネラティブ建築は、設計と施工が分業しているフローではまず実現しません。

環境再生土木・造園の知見を取り込む

土地の読み方、基礎下の通気浸透層の作り方、水脈溝の配置、植栽の順序——どれも現場の経験知が必要な領域です。設計初期段階から、環境再生土木・造園の知見を持つ施工パートナーを巻き込んでください。図面が固まった後に「この通気浸透層、施工できますか?」と相談されても、最良解は出せません。逆に、敷地調査の段階から一緒に歩けば、設計のオプションは一気に広がります。

古来工法のディテール(杭・栗石・井桁丸太)

鎌倉時代の盛土城跡では、松の杭・井桁状に組んだ丸太・栗石・稲わら・落葉を組み合わせた構造物が、800年経った今も形を保ったまま発掘されています。古墳時代の葺石は1,500〜2,000年単位で残っています。

これらは現代の不織布フィルターやセメント系改良剤と異なり、根や菌糸を遮断せず、時間とともに機能が育つ構造です。杭は縦杭(浸透誘導)・横杭(内部水引き出し)・斜杭(楔・水道形成)と使い分けがあり、1区間で1,500本を使うこともあります。建築家の方が古来工法のディテールを把握しておくと、設計の選択肢が一気に広がります。

まとめ

  • 環境再生型建築は「悪化させない」サステナブルから一歩進み、「建てるほどに土地と生態系が回復する」設計思想
  • 設計の出発点は、建物ではなく敷地の地形・水脈・土壌・生態系を読むことから始まる
  • Ishiba-date (Traditional Stone Foundation)のように、コンクリートで地面を塞がず床下を解放する基礎の選択肢を知っておくと、建築の自由度が一気に広がる
  • ライフサイクル全体——素材の生産から解体時の還元性まで——を初期設計の評価軸に組み込む
  • 建物と外構(ランドスケープ)を分けず、雨水循環と植栽計画を最初から一体で設計する
  • 設計段階から、環境再生土木・造園の知見を持つ施工パートナーと協働することが成立の鍵
  • 古来工法(杭・栗石・井桁丸太・点穴・水脈溝)のディテールを建築家が知ることで、設計の選択肢は一気に広がる


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