電気を使わない排水浄化システムを自作|炭と石と微生物で排水を土に還す仕組み

家の排水は、配管に流した瞬間から「見えないもの」になります。けれど、その水の行き先に電気で空気を送り続ける機械があり、定期的な汲み取りや薬剤があり、最後は川や海へ流れていく——その仕組みに、どこか引っかかりを感じている方は少なくないはずです。

私たちEKAMは、自社の敷地で電気を使わない排水浄化システムを自作しました。参考にしたのは、微生物と土の力で排水を分解し、大地に還す仕組みとして全国で導入が進む「エコロンシステム」の考え方です。そこに、私たちが普段の環境再生土木・造園で使っている炭・石・有機物の扱い方を重ね、地元で手に入る素材で組み立てました。

この記事は2本シリーズの1本目です。ここでは排水浄化システムがなぜ電気なしで働くのかという原理と、設計で何を考えたのかを整理します。掘削から仕上げまでの工程は、写真つきの施工編で詳しく紹介します。また、同じ考え方で宿泊や飲食の事業ができるのかについては、別の記事にまとめました。

山と森を背にした敷地で、排水浄化システムのためのトレンチを掘削しているところ
山と森を背にした敷地で、排水浄化システムのためのトレンチを掘削しているところ

排水浄化システムを自作した理由

「処理して流す」から「土に還す」へ

一般的な合併処理浄化槽は、ブロワー(送風機)で槽の中に空気を送り、微生物に有機物を分解させてから、処理水を側溝や川へ放流します。性能は安定していて、法律で認められた確かな仕組みです。一方で、ブロワーは24時間動き続け、家庭の電気を使い続けます。エコロンシステムの公開情報では、合併処理浄化槽を使う一般家庭の年間電力消費のうち、およそ15%が排水処理に充てられているとされています。

私たちが気になっていたのは電気代だけではありません。処理水をパイプで遠くへ流すと、敷地の中の水の循環が一本の管で断ち切られます。環境再生土木・造園の現場で繰り返し見てきたのは、水と空気がゆっくり土の中を通る場所ほど、植物も土も健やかになるという事実です。排水も「捨てるもの」ではなく、時間をかけて土に還す水として扱えないか。それが出発点でした。

既製品ではなく自作を選んだ理由

市販のシステムを導入する選択肢もありました。それでも自分たちの手で組んだのは、次の3つを確かめたかったからです。

  • 炭・石・麻・落ち葉など、造園の現場で使い慣れた素材で同じ働きを再現できるか
  • 島の雨の多さと、水が浸みにくい粘土質の地盤で、どこに気をつければよいか
  • 時間の経過とともに、植物や土の様子がどう変わっていくか

電気を使わない排水浄化の原理

電気なしで排水がきれいになるのは、性質の違う微生物に順番に仕事を渡していくからです。排水浄化システムの中では、大きく3つの段階が起きています。

1. 嫌気の層:沈めて、溶かす

排水が最初に入る槽では、重い固形物が底に沈みます。ここは酸素が少ない状態(嫌気性)で、嫌気性の微生物が有機物をゆっくり液化・分解します。いわば「消化」の工程です。流入する量と、微生物が分解する量のつり合いがとれていれば、固形物は溜まり続けません。

2. 好気の層:石の表面で分解する

新しい排水が入ると、槽の上澄みが押し出され、石や砕石の隙間へ移ります。石の表面には微生物の薄い膜(生物膜)ができ、そこに空気が届くことで、酸素を使う好気性の微生物が残った有機物を分解します。石の隙間が多いほど表面積が増え、空気も通りやすくなります。

3. 土の層:毛細管の力で、ゆっくり広げる

最後に水は、土の細かな隙間を伝う毛細管現象(もうさいかんげんしょう、細い隙間を水が吸い上げられるように移動する力)で、周囲の土へ浸みていきます。ここで土壌微生物と植物の根が、窒素やリンなどの養分を受け取ります。水の一部は植物を通じて大気へ還り、一部は時間をかけて地下へ移動します。

段階 主な働き手 環境 起きていること
嫌気の層 嫌気性微生物 酸素が少ない 固形物の沈殿・液化
好気の層 好気性微生物(生物膜) 石の隙間に空気 有機物の分解
土の層 土壌微生物・植物の根 通気と保水のある土 養分の吸収・水の循環

機械の力を借りずに済むのは、水が上から下へ、槽から土へと自然に移動する力と、空気が通る構造を最初から設計に組み込んでいるからです。

自作の排水浄化システムで工夫した5つの点

エコロンシステムが公開している目安は、1人1日200リットルの排水に対して、幅1.3〜1.4メートル、長さは1人あたり2メートルです。4人家族なら長さ8メートルが基準になります。今回も4人家族分の排水を想定し、この考え方を下敷きに規模を決めました。そのうえで、私たちなりに次の5点を工夫しています。

炭で「呼吸する壁」をつくる

槽の周りは、掘った土をそのまま戻すのではなく、炭で埋めて突き固めました。炭は無数の小さな孔を持ち、空気の通り道を保ち、微生物の住処になり、においの成分も吸着します。土の断面を見ると、炭の黒い層と赤い地山の境目がはっきりわかります。

トレンチの壁面。赤い地山の上に炭の黒い層が重なっている断面
トレンチの壁面。赤い地山の上に炭の黒い層が重なっている断面

丸石と割石で、隙間の多い層をつくる

槽の中には川の丸石を並べ、その上を割石で覆いました。丸石どうしの間には大きな隙間ができ、水と空気の両方が通ります。コンクリートの箱の中で水を処理するのではなく、石の表面そのものを微生物の住処にする考え方です。

麻・ヤシ繊維など、いずれ土に還る素材を使う

管のまわりには麻布を巻き、上部はヤシ繊維と麻布で覆いました。砂や土が石の隙間に入り込んで目詰まりするのを防ぎながら、数年かけて分解され、最終的には土の一部になります。

通気と点検のための縦管を立てる

地表には何本か塩ビ管が立っています。これはガスを逃がし、空気を送り込む通気の役割と、中の水位を確認する点検口を兼ねています。見えない場所で働く仕組みだからこそ、中の様子を確かめられる窓を残しておくことが大切です。

表面を落ち葉とウッドチップで覆う

最後に地表を落ち葉とウッドチップで厚く覆いました。雨が直接たたきつけて表面が締まるのを防ぎ、乾燥をやわらげ、土の表層の微生物や小さな生き物の住処になります。

完成した排水浄化システム。地表は落ち葉とウッドチップで覆われ、通気と点検のための管が立っている
完成した排水浄化システム。地表は落ち葉とウッドチップで覆われ、通気と点検のための管が立っている

施工してわかったこと・注意したいこと

地盤の水の浸み方を先に確かめる

掘削したトレンチに水が溜まり、なかなか引かない場面がありました。粘土分の多い地盤では、水は思っている以上に浸みていきません。毛細管の力で土に還す仕組みは、地盤がどれだけ水を受け取れるかに左右されます。設置の前に、試験的に穴を掘って水を入れ、引き方を見ておくことをおすすめします。

流してはいけないものを家族で共有する

主役は微生物です。パイプ洗浄剤や強い塩素系漂白剤、大量の油、分解されないビニール類は、微生物の働きを止めたり、詰まりの原因になったりします。洗剤は使う量を控えめにし、油は拭き取ってから洗うなど、家の中での習慣も仕組みの一部だと考えています。

水質は「感覚」ではなく数値で確かめる

においがしない、水があふれていない、というのは大事な目安です。ただし、それだけで浄化の度合いはわかりません。私たちも今後、点検口の水を採取してBOD(生物化学的酸素要求量、水の汚れの指標)などを測り、季節ごとの変化を記録していく予定です。数値がそろった段階で、あらためて共有します。

日本の制度と、導入を考える方へ

ここは必ずお伝えしておきたい点です。日本では、トイレからのし尿を処理して下水道以外へ流す設備は、浄化槽法にもとづく「浄化槽」でなければならないと定められています(浄化槽法第3条の2)。エコロンシステムのような土壌で浄化する仕組みは、この「浄化槽」として認められたものではありません。

実際の扱いは自治体によって異なり、建築確認、生活排水に関する条例、水道水源や地下水の保全など、確認すべきことは地域ごとに変わります。インターネット上の導入例がそのまま自分の土地に当てはまるとは限りません。

  • 設置の前に、市町村の環境・浄化槽担当課、保健所、建築指導課に相談する
  • 井戸や水源、川や海との距離を確認し、地下水を汚さない配置にする
  • 生活雑排水だけを対象にする、法定の浄化槽の後段で仕上げに使うなど、地域で認められる形を探す

この記事は、私たちの施工の記録と原理の共有を目的としたものです。同じ設備の設置を勧めるものではありません。

排水は、捨てる水ではなく 土に還す水。

よくある質問

Q. 電気を使わない排水浄化システムはどうやって排水をきれいにするのですか?
性質の違う微生物に順番に仕事を渡すことで浄化します。まず酸素の少ない槽で固形物を沈めて嫌気性微生物が分解し、次に石の隙間で空気に触れた好気性微生物が有機物を分解し、最後に土の毛細管現象で水が周囲に広がり、土壌微生物と植物の根が養分を受け取ります。

Q. 排水浄化システムに炭を使うのはなぜですか?
炭は無数の小さな孔を持つため、突き固めても空気の通り道が残り、微生物の住処になり、においの成分も吸着するからです。槽の周りを炭で埋め戻すと、締まっていながら呼吸できる壁になります。

Q. 4人家族の場合、どのくらいの大きさが必要ですか?
エコロンシステムが公開している目安では、1人1日200リットルの排水に対して幅1.3〜1.4メートル、長さは1人あたり2メートルで、4人家族なら長さ約8メートルです。ただし地盤の浸透性によって必要な規模は変わるため、事前に水の引き方を確かめることが大切です。

Q. トイレの排水も土に還す仕組みで処理してよいのですか?
日本では、し尿を処理して下水道以外へ流す設備は浄化槽法にもとづく浄化槽でなければならないと定められており、土壌で浄化する仕組みは浄化槽として認められていません。扱いは自治体によって異なるため、設置前に必ず市町村の担当課・保健所・建築指導課へ相談してください。

Q. 排水浄化システムに流してはいけないものは何ですか?
パイプ洗浄剤や強い塩素系漂白剤、大量の油、分解されないビニール類です。微生物の働きを止めたり、石の隙間を詰まらせたりする原因になるため、洗剤の量を控え、油は拭き取ってから洗う習慣が仕組みを長持ちさせます。

まとめ

  • 電気を使わない排水浄化システムは、嫌気の層、好気の層、土の層へと、性質の違う微生物に順番に仕事を渡すことで働く
  • 自作では、炭で呼吸する壁をつくり、丸石と割石で隙間の多い層をつくり、麻やヤシ繊維など土に還る素材で目詰まりを防いだ
  • 成否を分けるのは、地盤の浸透性、空気の通り道、そして流してはいけないものを流さない暮らし方
  • し尿を含む排水は浄化槽法の対象になるため、導入前に必ず自治体へ相談する

次の施工編では、掘削から炭・石の敷き込み、マルチングで仕上げるまでの工程を、16か月分の現場写真で順を追って紹介します。



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