屋久島の石場建の家がIDA 2025受賞|高床式と森と暮らす環境再生型住宅

このたび、EKAMが施工を担当した石場建の住宅『Regenerative Vegan House(リジェネラティブ・ヴィーガン・ハウス)』が、国際デザイン賞「IDA Design Awards 2025」のブロンズ賞を受賞しました。屋久島の森に建つこの家は、設計をtono Inc.(小野司氏)が、石場建施工をEKAMが担当した、環境再生型の住宅です。

この記事では、IDA Design Awards 2025の概要、受賞作の特徴、そして石場建高床式という日本古来の建築技術が、屋久島の特殊な気候・生態系の中でどう活きるかを、施工に携わった立場からじっくり解説します。

IDA Design Awards 2025とは:世界的に権威ある国際デザイン賞

IDA Design Awards(International Design Awards)は、2007年に米国ロサンゼルスで創設された国際デザイン賞です。建築・インテリア・グラフィック・ファッション・プロダクトなどの幅広いデザイン領域で、世界中の優れた作品を表彰しています。毎年、世界60カ国以上から数千件の応募があり、各カテゴリで金・銀・銅の各賞が選出されます。

受賞カテゴリと評価ポイント

今回の受賞カテゴリは Residential Architecture / Sustainable Home(住宅建築/サステナブル住宅) 部門のブロンズ賞。世界中から集まった「サステナブルな住宅」の中で、設計思想・環境への配慮・地域素材の活用・職人技術の継承などが総合的に評価されました。

受賞 IDA 2025, Bronze
カテゴリ Residential Architecture / Sustainable Home
作品名 Regenerative Vegan House
設計 tono Inc.(デザイナー:小野 司/Tsukasa Ono)
石場建施工 EKAM
所在地 鹿児島県屋久島町

石場建とは:千年以上続く日本の伝統工法

石場建(いしばだて)とは、コンクリート基礎を使わず、地面に据えた自然石の上に直接柱を立てる伝統的な木造建築の工法です。法隆寺をはじめとする千年級の木造建築が今日まで残ってきたのは、この石場建の工法によるところが大きいと言われています。

石場建の基礎構造のしくみ

受賞作の基礎は、まさに環境再生型石場建の真髄を体現しています。地中には次のような層構造が組み込まれています。

📐 基礎の断面構造(上から)

  1. 柱(構造):木造の柱が、金物を介して基礎石に固定される
  2. 基礎石(花崗岩):自然石をそのまま据える。コンクリートは使わない
  3. 栗石・砕石層:基礎石の周辺と下に石を組み、力を分散させる
  4. 炭の層:竹炭・木炭を埋め込み、湿気調整と微生物環境を作る
  5. 木杭:縦方向に杭を打ち、水と空気の通り道を作る
  6. 菌糸ネットワーク:時間をかけて菌糸が広がり、土壌を断粒化させる

現代の鉄筋コンクリート基礎との違い

一般的な鉄筋コンクリート基礎(ベタ基礎)は、地面と建物を完全に切り離し、上からの荷重を「面」で受けます。一方、石場建は石と杭で「点」と「線」で受け、地面と建物の間に常に水と空気が通る設計です。これにより、湿気がこもらず、地震時には石の上で建物が滑って衝撃を逃がす「免震的」な働きも生まれます。

高床式という選択:地面と建物の関係を再定義する

受賞作のもうひとつの特徴が、高床式であること。地面から数十cm〜1m以上、床面を持ち上げる設計です。日本では弥生時代の高床倉庫から続く長い歴史があり、東南アジア・南太平洋でも広く採用されてきた設計様式です。

高床式の歴史と現代的な意義

高床式は単なる「湿気対策」だけではありません。地面と建物の間に空間を作ることで、以下のような複合的な効果を生みます。

  • 地中の湿気・カビ・シロアリから木造躯体を守る
  • 床下に風が抜けることで、夏の涼しさが格段に違う
  • 地表面の生態系を破壊せず、植物や小動物の通路を確保できる
  • 洪水・大雨時に床上浸水のリスクを下げる
  • 建物のメンテナンス・点検が容易(床下に潜って確認できる)

受賞作の建築的特徴:森と寄り添う設計

受賞作の写真を見ると、いくつかの象徴的な特徴が読み取れます。

焼杉(やきすぎ)の外壁

外壁は焼杉。杉板の表面を炭化させることで、防腐・防虫・防火性能を化学薬品なしで高める日本の伝統技術です。経年で美しい銀色〜黒色に変化し、メンテナンスフリーで50〜80年もつとされます。

樹木を残した建築計画

建物の中央デッキを抜けるように、敷地の既存樹木がそのまま立ち上がっています。樹木を伐採して整地するのではなく、樹木の位置に合わせて建物を設計する——これは「環境再生型」の建築設計の核心思想です。樹木が落とす木陰、根が育てる土、葉が育む虫たちが、家の住環境の一部となります。

地面に近い暮らしと、地面を大切にする設計

外部デッキは木製で、地面とのつながりを保ちながら、土壌を踏み固めない構造です。基礎の周辺には地表流出を防ぐ栗石・落葉が層状に配置されており、雨が降るたびに有機物が地中へ供給される仕組みになっています。

屋久島で石場建×高床式が活きる5つの理由

屋久島は、世界自然遺産にも登録された特殊な気候と生態系を持つ島です。この地に建てる家にとって、石場建×高床式は単なる伝統への回帰ではなく、気候風土に最も適した合理的な選択であると言えます。

1. 圧倒的な多雨多湿への耐性

屋久島の年間降水量は平地で約4,500mm、山間部では8,000〜10,000mmに達します。日本の平均年間降水量(約1,700mm)の3〜6倍。このような環境で鉄筋コンクリート基礎を使うと、コンクリート内部の湿気が抜けず、躯体の木材が常時湿潤状態となり、腐朽菌・カビが繁殖します。石場建は石と石の間に常に空気が通るため、湿気がこもりません。

2. 高温多湿でも涼しい床下通気

高床式により床下に風が抜けるため、夏場の床上が涼しく保たれます。エアコンに頼らず、自然通風だけで快適な室内環境を維持できる設計です。屋久島の温暖な気候では、この「パッシブクーリング」の効果が一年を通して活きます。

3. シロアリ・腐朽菌の被害リスクを大幅に下げる

地面と直接接触しない構造のため、シロアリの侵入経路が物理的に限定されます。化学的な防蟻処理に頼らず、設計の力でシロアリ被害を防ぐ。これは長期的に見て、家の耐用年数とメンテナンスコストの両方に大きく効きます。

4. 樹木と共生する建築が可能になる

屋久島の森は、世界遺産に登録された貴重な生態系です。コンクリート基礎で整地すれば、その土壌・根系・微生物ネットワークが破壊されます。石場建×高床式なら、既存の樹木を残し、根を傷つけず、土壌生態系を保ったまま家を建てることができます。受賞作で樹木が建物中央を貫いて立ち上がる設計は、この思想の象徴です。

5. 台風・地震・水害への柔軟な対応力

屋久島は台風の常襲地域でもあります。高床式は大雨時の床上浸水リスクを物理的に下げます。また、石場建は基礎石の上で柱が滑ることで、地震エネルギーを逃がす「免震的な働き」を持ちます。剛接合のRC基礎が地震時に建物を硬く受け止めるのに対し、石場建は「いなす」発想で対応します。

Regenerative(環境再生型)住宅としての設計思想

受賞作の作品名『Regenerative Vegan House』には、単なる「サステナブル(持続可能)」を超えた思想が込められています。「Regenerative(リジェネラティブ/環境再生型)」とは、環境への負荷を減らすだけでなく、住むことが環境を再生していくという考え方です。

この家では、次のような要素が組み合わされています。

  • 建設時に既存樹木を1本も伐採せず、地形を最小限しか変えない
  • 基礎の地中構造に炭・落葉・木杭を組み込み、菌糸ネットワークを育てる
  • 外壁は焼杉、躯体は地域の木材を使い、化学薬品の使用を最小化
  • 家の周辺に在来植物を植え、生物多様性を回復させる
  • 住み手のライフスタイル(ヴィーガン)と建築哲学が連動している

「Vegan House」という名は、住み手が動物性食品を取らないライフスタイルから来ていますが、家そのものも「動物の素材を使わない」「他の生き物を傷つけない設計」を貫いている点で、建築哲学と暮らし方が一貫しています。

施工を担当して感じたこと

EKAMは環境再生土木・造園を専門とする会社ですが、石場建のような伝統工法は、私たちの設計思想とぴたりと重なります。コンクリートで地面を塗り固めず、水と空気と菌糸の通り道を残す——これは庭づくりも建築基礎も、根本では同じ発想です。

屋久島という特殊な環境で、設計者・施工者・住み手の哲学が一致したからこそ実現した家です。日本の伝統工法が、現代の環境課題への一つの答えになり得ることを、この受賞が国際的に示してくれたと感じています。

まとめ

  • EKAM施工の屋久島の石場建住宅『Regenerative Vegan House』が、IDA Design Awards 2025のブロンズ賞を受賞
  • カテゴリは Residential Architecture / Sustainable Home。設計はtono Inc.(小野司氏)
  • 石場建は自然石の上に直接柱を立てる千年級の伝統工法。基礎周辺に水と空気と菌糸の通り道を残す
  • 高床式は床下通気・湿気対策・樹木との共生・水害対応など複合的な効果を持つ
  • 屋久島の多雨多湿・高温・台風・特殊生態系には、石場建×高床式が合理的な選択肢
  • 「Regenerative(環境再生型)」とは、住むことが環境を再生していく設計思想

日本の伝統工法には、現代の環境課題に応えうる知恵が眠っています。EKAMでは、こうした技術を次の世代に引き継ぎ、現場で活かしていく取り組みを続けていきます。

よくある質問

Q1. 石場建の家は地震に弱くないですか?

逆に、石場建は石の上で柱が滑ることで地震エネルギーを「いなす」免震的な働きを持ちます。法隆寺をはじめ千年以上残ってきた木造建築の多くが石場建であることが、その実証です。ただし現代建築基準法上は特殊な扱いになるため、設計者は伝統構法に詳しい専門家を選ぶ必要があります。

Q2. 石場建の家は新築できるんですか?

はい、可能です。建築基準法上は「限界耐力計算」など特別な構造計算が必要になりますが、伝統構法に対応する設計事務所・工務店であれば対応できます。今回の受賞作のように、現代の生活様式と伝統工法を融合させた事例も増えています。

Q3. 高床式にすると床下が寒くないですか?

断熱・気密設計が適切であれば問題ありません。むしろ床下に風が抜けることで、夏は涼しく、冬は地面からの冷気が床に伝わりにくくなります。屋久島のような温暖地域では、特にメリットが大きい設計です。

Q4. 屋久島以外でも石場建×高床式は有効ですか?

はい、有効です。特に多雨地域・湿潤地域・台風常襲地域・洪水リスクのある地域では大きなメリットがあります。日本の伝統的な民家がこの工法で建てられてきた歴史が、その有効性を物語っています。

Q5. 環境再生型の家・庭づくりを学びたいのですが、どうすればいいですか?

EKAMのオンライン講座では、石場建を含む環境再生型の設計思想と施工技術を、動画教材と個別サポートで体系的に学べます。プロの建築・造園関係者も、自分の家・庭に取り入れたい個人の方も対応しています。



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