このたび、EKAMが施工を担当した屋久島の石場建住宅『Regenerative Vegan House(リジェネラティブ・ヴィーガン・ハウス)』が、Architecture Designers Community(ADC)主催の第5回 国際建築デザイン賞「IADA 2026(International Architecture & Design Awards 2026)」において、Household & Residential Building Design 部門の最高賞・Platinum Winnerに選ばれました。設計はtono Inc.(小野司氏)、石場建施工をEKAMが担当しています。
受賞ページ:ADC公式サイトの受賞発表ページはこちら
この記事では、IADA 2026という賞そのものをわかりやすく紹介したうえで、なぜ日本の千年級伝統工法である石場建が、いま世界の建築界で高く評価されているのかを、建築の専門知識がない方にも伝わる言葉で解説します。
国際建築デザイン賞IADA 2026とはどんな賞か
IADA(International Architecture & Design Awards)は、Architecture Designers Community(ADC)が主催する国際的な建築・デザイン賞です。世界中の建築家・デザイナーから応募作品が集まり、住宅・商業施設・ランドスケープ・インテリアなど幅広いカテゴリで優れた作品を表彰します。
主催のADC(Architecture Designers Community)について
ADCは「Architecture & Design Community」とも呼ばれる国際的な建築・デザインのオンラインコミュニティです。ソーシャルメディア上で30万人以上のフォロワーを持ち、世界中の建築家・デザイナー・教育者が交流するハブとして機能しています。
第5回となるグローバルな国際賞
2026年版で第5回(5th milestone edition)を迎えたIADAは、年々応募規模が拡大している国際賞です。審査員は米国・ヨーロッパ・アジアなど世界各地に拠点を置く建築家・デザイナー・教育者で構成され、特定の地域や様式に偏らない多様な視点で作品が評価されます。
賞のティア構造とPlatinumの位置づけ
IADAの受賞ティアは「Platinum / Gold / Silver / Bronze」の階層で構成されており、Platinumは最高位に位置します。各カテゴリで最も卓越したデザイン哲学・社会的意義・技術的革新性を備えた作品にのみ授与される、いわばその年そのカテゴリの「頂点」です。
受賞作『Regenerative Vegan House』とは
受賞作は、世界自然遺産・屋久島の森に建つ、環境再生型の住宅です。コンクリート基礎を使わず、千年以上の歴史を持つ日本の伝統工法「石場建」で築かれています。
| 受賞 | IADA 2026 Platinum Winner(最高賞) |
| 主催 | Architecture Designers Community(ADC) |
| カテゴリ | Household & Residential Building Design |
| 作品名 | Regenerative Vegan House |
| 設計 | tono Inc.(デザイナー:小野 司/Tsukasa Ono) |
| 石場建施工 | EKAM |
| 所在地 | 鹿児島県屋久島町 |
| 設計の三原則 | ①植物由来素材の使用 ②生息地を守る倫理的な設計 ③環境を再生する施工技術 |
そもそも「石場建」とは何か(はじめての方へ)
建築界以外の方には聞き慣れない言葉かもしれません。一言でいうと、石場建とは「コンクリート基礎を使わずに、自然石の上に直接柱を立てる伝統的な木造建築の工法」です。
普通の家との違いはどこにあるのか
現代の一般的な住宅は、地面を掘って鉄筋を入れ、コンクリートを流し込んだ「ベタ基礎」の上に建ちます。地面と建物が、コンクリートで完全に固定されているイメージです。
これに対して石場建は、地面に大きな自然石(基礎石)を据え、その上にそのまま木の柱を立てます。柱と石の間にコンクリートも金物もほとんど使いません。地面と建物の間に、常に水と空気と土の生き物が通れる隙間が残されている設計です。
法隆寺も石場建:千年残る木造建築の秘密
「コンクリートで固めない家」と聞くと不安に思う方もいるかもしれません。しかし実は、法隆寺をはじめとする千年以上残ってきた日本の木造建築の多くは石場建です。むしろコンクリートで固めないからこそ、湿気がこもらず、地震の力を逃がし、傷んだ部分だけを取り替えながら建物を生かし続けることができるのです。
なぜ今、世界が石場建を評価するのか(5つの理由)
千年前から日本にある古い工法が、なぜ2026年の今、国際的なデザイン賞の最高位に選ばれるのでしょうか。背景には、世界の建築界で進む大きな価値観の転換があります。
① ライフサイクル全体での環境負荷が圧倒的に小さい
建築の世界では今、「建てる時」だけでなく「使い続ける時」「壊す時」も含めたライフサイクル全体での環境負荷(カーボンフットプリント)が問われています。コンクリートと鉄筋は、製造時に莫大なCO₂を排出し、解体後はほぼ産業廃棄物になります。一方、石場建は石・木・土という自然素材だけで作られ、解体すれば素材はそのまま土に還ります。「家のはじまりから終わりまで地球を汚さない」という設計思想が、世界の評価軸と一致したのです。
② 自然素材だけで完結する循環性
石場建で使われる素材は、石・木・土・草・竹・炭——どれも100年・200年単位で循環する自然由来のものです。化学接着剤・防腐剤・防蟻剤などの化学物質を最小限に抑えるため、室内空気の質も健全に保たれます。これは、世界の建築界が重視する「ヘルシービルディング(健康な建物)」の概念とぴたりと重なります。
③ 地震エネルギーを「いなす」免震的な発想
多くの方が誤解しているのは「石場建=地震に弱い」という思い込みです。実際は逆で、石の上で柱がわずかに滑ることで、地震エネルギーを逃がす「免震的な働き」を持ちます。固く受け止めるのではなく、しなやかに受け流す——日本の伝統工法に共通する発想です。世界中で頻発する大地震・大型台風に備える知恵として、改めて再評価されています。
④ 修復・解体・素材再利用の容易さ
コンクリート住宅は一度建てると修復が難しく、解体時には大量の廃棄物を出します。一方、石場建は傷んだ柱や梁を一本ずつ交換できる「部分修繕」が前提の構造です。基礎石・梁・柱は何度でも再利用が可能。建築資源の循環という意味で、現代のサーキュラーエコノミーの理想形ともいえます。
⑤ 地域素材と職人技の継承
石場建は、その土地で採れる石・地域の木材・地元の職人の手によって築かれます。グローバル化したサプライチェーンに依存せず、地域経済と伝統技術を同時に守る建築様式。世界の建築界が「土地に根ざす建築(バナキュラー建築)」を再評価する流れの中で、石場建はその完成された一例として注目されています。
「Regenerative(リジェネラティブ)」という思想が建築界の最前線へ
受賞作の名前にある「Regenerative(環境再生型)」は、いま世界の建築界で最も注目されているキーワードのひとつです。
「サステナブル」から「リジェネラティブ」へ
これまでの建築業界の合言葉は「サステナブル(持続可能)」でした。しかし「持続可能」は、悪く言えば「これ以上悪化させない」という現状維持の概念です。
これに対して「リジェネラティブ」は、建てて住むこと自体が、土地と生態系を回復させていくという、より積極的な発想です。木を伐らず、地形を変えず、土壌の生き物を傷つけず、むしろ家が建つことで森が豊かになる——そんな建築のあり方が、IADA審査員をはじめ世界の建築界が評価する新しい基準になりつつあります。
受賞作が体現する3つの設計原則
受賞ページに記された設計三原則は次の通りです。
- 植物由来素材の使用(Plant-based materials):動物由来の素材を使わない倫理的選択
- 生息地を守る倫理的な設計(Ethical integration protecting habitats):既存の樹木・土壌生態系を傷つけない
- 環境を再生する施工技術(Regenerative practices restoring the environment):建てることが土地を豊かにする
これらは、施主のヴィーガンライフスタイルと、設計者・施工者の建築哲学が一致して初めて実現できる組み合わせです。
海外賞受賞から読み解く世界の潮流
『Regenerative Vegan House』は、すでに2025年のIDA Design Awards(International Design Awards)でBronze賞を受賞しており、今回のIADA Platinumと合わせて2つの国際賞を獲得しています。詳しくは 前回のIDA受賞記事 をご覧ください。
異なる主催団体・異なる審査員から連続して評価されたという事実は、この家の設計思想が特定の流派や好みではなく、世界の建築界に共通する価値基準に沿っていることを示しています。日本の伝統工法が「ローカルな様式」ではなく「グローバルに通用する建築思想」として認知されたという意味で、石場建に関わる職人・設計者にとって象徴的な出来事と言えます。
EKAMから一言
EKAMは環境再生土木・造園を専門とする会社ですが、石場建のような伝統工法は、私たちの設計思想とぴたりと重なります。コンクリートで地面を塗り固めず、水と空気と菌糸の通り道を残す——これは庭づくりも建築基礎も、根本では同じ発想です。
屋久島という世界自然遺産の地で、設計者・施工者・住み手の哲学が一致したからこそ実現した家です。日本の伝統工法が、現代の地球規模の課題への一つの答えになり得ることを、この受賞が国際的に示してくれたと感じています。今後も、こうした技術を次の世代に引き継ぎ、現場で活かしていく取り組みを続けていきます。
まとめ
- EKAM施工の屋久島の石場建住宅『Regenerative Vegan House』が、ADC主催の第5回国際建築デザイン賞IADA 2026で最高賞Platinum Winnerを受賞
- カテゴリは Household & Residential Building Design。設計はtono Inc.(小野 司氏)
- 石場建は「コンクリートを使わない伝統工法」。法隆寺など千年級の木造建築を支えてきた技術
- 世界が評価する5つの理由:①ライフサイクル環境負荷の小ささ ②自然素材の循環性 ③地震を「いなす」免震性 ④修復・解体の容易さ ⑤地域素材と職人技の継承
- 「サステナブル」から「リジェネラティブ」へという建築界の価値観転換と、石場建の思想がぴたりと一致した
- IDA Bronzeに続く国際賞受賞は、日本の伝統工法がグローバルに通用する建築思想として認知された証
よくある質問
Q1. ADC(Architecture Designers Community)はどんな団体ですか?
世界中の建築家・デザイナー・教育者が参加する国際的な建築・デザインコミュニティです。ソーシャルメディア上で30万人以上のフォロワーを持ち、年に一度IADA(国際建築デザイン賞)を主催しています。
Q2. IADAのPlatinum Winnerはどのくらいすごい賞ですか?
IADAの受賞階層はPlatinum / Gold / Silver / Bronzeで、Platinumが最高位です。各カテゴリで最も卓越した作品にのみ授与されるため、その年・そのカテゴリの「頂点」と位置づけられます。
Q3. 石場建は現代の日本でも建てられるのですか?
はい、可能です。建築基準法上は限界耐力計算など特別な構造計算が必要ですが、伝統構法に対応する設計事務所・工務店であれば対応できます。今回の受賞作のように現代の生活様式と融合させた事例も増えています。
Q4. 「リジェネラティブ建築」と「サステナブル建築」は何が違うのですか?
サステナブルは「これ以上環境を悪化させない」という現状維持の概念、リジェネラティブは「建てて住むこと自体が環境を回復させる」というより積極的な思想です。世界の建築界の最前線では、サステナブルからリジェネラティブへの価値観転換が進んでいます。
Q5. 自分の家を石場建で建てたい・学びたい場合はどうすればいいですか?
EKAMのオンライン講座では、石場建を含む環境再生型建築の設計思想と施工技術を、動画教材と個別サポートで体系的に学べます。プロの建築・造園関係者から、自分の家・庭で実践したい個人の方まで対応しています。